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Vol. 018

講演レビュー

新宮 真由美 (Goldratt Japan Viable Vision Assistant)

誰も経験していないグローバルな変化にさらされている日本。
自分の経験だけでは、子どもを導けないと不安に感じる。
社会に出ると正解のない数々の難問に遭遇するが、
学校の教育だけで、社会に出るための十分な準備ができるのか?
将来に備えて、子どもに何を学ばせればよいのか…

こんな時、あなたならどうする?

子どもたちの未来に 最高の贈り物を!

現在の日本の状況を考えると、子どもの将来に大きな不安がある――。こう悩んでいた新宮真由美は「子どもイノベーター塾」に子どもを受講させることを決めた。子どもたちは、ここでの学びを生かし、自ら問題を解決して目覚ましい成果を上げる。

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 大人になって社会に出ると、正解を教えてくれる教科書があるわけではない。学校のテストのように、あらかじめ正解が用意されているわけでもない。日々の仕事や生活の中で遭遇する問題の大半は正解すらない。学校で学んだことが、そのまま通用するほど世の中は甘くないのだ。



正解のない世界を生き抜く力とは

 それでは、難問だらけの社会へ出るために子どもたちは何を学べばよいのか。正解のない世界を生き抜く力とは何なのか――。この答えのヒントが、イスラエルの教育体制にある。


 同国は「イノベーション大国」とも呼ばれ、過去に類を見ない革新的な製品・サービスを次々と生みだしている。イノベーション大国に至った最大の要因が、ユニークな教育アプローチにある。この教育とは、教科書で正解を学ぶのではなく、徹底的に「考える力」を身に付けるための訓練を行うことだ。この力は「正解がない問題に対して、自分で正解を創り出す力」ともいえる。


 「世界最先端の教育を日本に持ち込みたい」「子どもの未来に最高の贈り物をしたい」――。こう願ったGoldratt Japanのメンバーが立ち上げたのが「子どもイノベーター塾」だ。ここでは、この塾を受講した子どもたちの実例を紹介する。見逃せないのは、子どもたちが成長しただけではなく、親も一緒に成長していることだ。



Goldratt Japanが主催する「TOCクラブ」で講演する様子
Goldratt Japanが主催する「TOCクラブ」で講演する新宮真由美とたくまくん(左)、ひなこちゃん(右)、こうたろうくん(中央)


「3つの秘密道具」で問題解決

 事例を発表するのは、Goldrattのメンバーである新宮真由美の3人のお子さんたち。長男のたくまくん(小学5年生)、長女のひなこちゃん(小学3年生)、次男のこうたろうくん(5歳)の3人だ(学年・年齢は2023年7月の発表時点)。


 イノベーター塾では、最初に子どもたちのそれぞれが抱えている問題や自分の目標を見いだす。問題や目標を論理的に整理するために「3つの秘密道具」の使い方を学ぶ。これは、原因と結果の関係を使って、論理的に考える力をつけるために編み出されたツール。①事象を記述する「はこ」、②事象のつながりを表す「矢印」、③複数の事象の組み合わせを表す「バナナ」――という3つの道具を使用する。TOC(制約理論)において、事象の論理関係を表すための基礎的なツールだ。複数の事象が組み合わさって複雑に見える問題も、これでシンプルに整理できる。


論理構造を表した図
図1●子どもイノベーター塾で学ぶ「3つの秘密道具」


 イノベーター塾を受講した3人は「ワクワクするような目標をつくろう」と話し合って、まずは目標を決めた。それが「ふわふわな、おっきなお家に住みたい!」というものだ。


 この目標の達成に向けて、「アンビシャス・ターゲット・ツリー(ATT)」というツールを活用する。ATTは、どうすればよいのかが分からないほど困難な目標(アンビシャス・ターゲット)を達成するための道筋を導き出すためのツール。まずアンビシャス・ターゲットを定義し、それを達成するための障害を考える。次に中間目標を考え、それを達成するための行動を考える。その行動の実行の順番を設定することで目標達成の道筋が見えてくる。下の図は、3人が実際に作成したATTだ。


アンビシャス・ターゲット・ツリー
図2●3人が作った「アンビシャス・ターゲット・ツリー」


お母さんの時間を増やすには?

 お金がないと家を建てられないので、まずは3人でお金を増やす方法を考えた。話し合いで出てきたのが、「自分たちで本を書いて、アマゾンで売ること」「家にあるいらないものを売ること」「お母さんがいっぱい働けるようにサポートすること」の3つだ。この中から、実現可能性を含めると3番目が最も良いと判断した。


 当時、母親の新宮真由美はGoldrattJapanにおいて在宅勤務で1日3時間だけ働き始めていた。3人で協力して、母親がもっと長い時間、働けるようにすれば、もっとお金が増えると考えた。


 そこで、「お母さんのお仕事の時間を増やすこと」を目標としたATTを新たに作った。3人で話し合った結果、母親の仕事時間が増えない一番の原因は兄弟げんかだと判明した。けんかをすると、誰かが母親のところにいくので仕事ができなくなっていたことが分かった。この目標を達成するための中間目標を「3人で仲良く遊べる」と設定し、これを達成するための行動を「3人で仲良く遊ぶことを目標にしたATTをつくる」とした。


 最後に「3人で仲良く遊ぶこと」を目標としたATTを作成。目標を達成するための行動は「3人みんなが好きでけんかにならない遊びを見つける」ことだった。そこで、けんかにならない「パズル」「ポケモンカード」「おりがみ」で遊ぶことにした。



ミステリー分析で失敗から学ぶ

 しばらくは、この3つで仲良く遊んでいたが徐々にけんかが起こるようになった。この原因を探るために、子どもイノベーター塾で習った「ミステリー分析」を行った。ミステリー分析は、思ったようにいかないことを分析するツール。7つの質問を使って、問題を可視化する。


 この結果、けんかが起こる原因は「同じもので遊んでいたら飽きる」ことだと分かった。解消策は「新しいパズルとポケモンカードを買ってもらう」となったが、3人は母親がそう簡単には買ってくれるとは思えなった。そこで、新しいおもちゃを買ってもらうために一計を案じる。3人で仲良く遊んだ時間を記録して、そのご褒美として新しいおもちゃを買ってもらうことにしたのだ。この作戦が功を奏し、ポケモンカードは徐々に増えていき、3人で長く遊べるようになった。


ミステリー分析
図3●けんかになる原因を特定した「ミステリー分析」

 このほかにも、たくまくんが母親に代わって家族の時間管理をしたり、ひなこちゃんが片付けや掃除のお手伝いをしたり、こうたろうくんは保育園のお迎えの時間を遅くするといった具合にみんなで頑張った。この結果、1年半で母親の勤務時間は3時間から6時間へ、そしてフルタイムと増えていった。



1週間で10人もの友達をつくる

 長男のたくまくんは、イノベーター塾での学びを生かして、GoldrattのグループCEO(最高経営責任者)であるラミ・ゴールドラットの前で英語の発表を行ったこともある。たくまくんは、Goldratt Japanの花見会で発表を行う機会を得たのだが、その日はちょうどラミ・ゴールドラットも参加する予定だった。


 Goldrattのメンバーから「英語で発表してもいいよ」という冗談めかした問いかけがあった。たくまくんは小さい頃から英語を習っていたのでチャレンジしてみたいと考えたが、もちろん自信があるわけではない。そこで「英語で発表できるようになる」という目標を設定してATTを作ってみた。このATTから、目標を達成するための行動として「ChatGPTを使って日本語を英訳する」ことと「発表の日まで毎日読んで練習する」ことが浮かび上がった。練習の成果が実り、花見会の当日は、ラミ・ゴールドラットを含めた参加者からスタンディングオベーションを受けることになった。


 5歳のこうたろうくんも、わずか1週間で10人の友達をつくるという目覚ましい成果を上げている。3カ月前に保育園を転園していたこうたろうくんには、なかなか友達が増えないという悩みがあった。特に自由時間に独りで遊ぶのが寂しく、保育園に行くのがいやになっていた。そこで、「遊ぶ時間にいつもお友達と遊べたらいい」という目標でATTを作ってみた。ここで導き出された行動が「相手の気持ちになって考える」ことだ。


ロジック図
図4●こうたろうくんが友達をつくる際に描いたロジック図

 相手の気持ちを考えるために、自分が誰かに「遊ぼう」と誘われたときの状況を論理的に整理した。そこで分かったことは、自分が好きな遊びであれば一緒に遊ぶが、そうでないときは遊ばないということだった。そこで、相手の好きな遊びで誘えばよいことが分かった。男の子のほとんどがブロックで遊んでいることを思い出し、遊ぶ時間にブロックで面白いものを作って話しかけてみた。これを毎日、繰り返した結果、一緒に遊ぶ友達がわずか1週間で10人も増えた。



子どもだけでなく親も成長する

 母親の新宮真由美は、子どもたちが成長しただけでなく、自分も成長したことに気づいたという。子どもイノベーター塾を受講する前は、親は子どもの困りごとを探し出して、それを解決するものだと考えていた。しかし受講後には、子どもが自分で立てた目標に向かって主体的に行動するのをサポートすればよいのだと考えを改めた。新宮は「良かれと思ってやっていたことが、実は子どもの考える機会を奪っていました」と昔を振り返る。


 新宮に限ったわけではないが、現在は子どもを育てる親にとってさまざまな不安がある。「超・少子高齢化社会で未来は大丈夫?」「AI(人工知能)が進化する未来に仕事はあるのか?」「子どもたちにどんなことを身に付けさせたらよいのか?」――。新宮は、ニュース番組を見る度に子育てに思い悩んでいた。だが、イノベーター塾で身に付けた力を考えると、子どもたちが頼もしく思えたという。



考えるプロセスがあることが利点

 新宮は、この力を大きく5つに整理する。1つ目は、3つの秘密道具を使って「因果関係をきちんと考える力」だ。イノベーター塾ではさまざまなツールを学ぶが、これが全ての基礎となる。2つ目が「失敗から学んで成長する力」。ミステリー分析を使って失敗した理由を解き明かせば、次への学びとつながるのだ。


 3つ目が「対立を解消して仲間と協力する力」。今回の発表には登場していないが、TOCには対立した関係の解消策を見つけ出す「クラウド」というツールがある。このツールもイノベーター塾で学ぶことが可能だ。


 4つ目が「問題を解決してブレークスルーを起こす力」。新宮は、こうたろうくんが友達ができずに悩んでいることをあまり知らなかったという。イノベーター塾を受講後にこうたろうくんが、この問題を解決したいと新宮に働きかけてきた。新宮のサポートの下で解消策を見いだすと、わずか1週間で10人もの友達をつくるというブレークスルーを起こしている。こうたろうくんの事例は個人的な問題を解決したものだが、新宮は「将来に職場や社会の問題に遭遇した際にも、この力が大いに役立つでしょう」と語る。


 5つ目が「高い目標に向かって実現していく力」だ。子どもでも大人でも、あまりに目標が高いと実現を諦めてしまうケースは少なくない。しかし、TOCを開発したエリヤフ・ゴールドラット博士は「どんなことをしても到達できないのが明らかなくらい高いゴールを選ぶことが大切だ」と指摘している。この理由は、達成不可能と思える高い目標の道のりの中でこそ、成長が持続できるからだ。イノベーター塾で学ぶATTを使えば、高い目標を実現するための道筋を描ける。


 新宮は、イノベーター塾の利点を「考えるためのプロセスがあることです」と評する。単に難問の答えを見いだすことを体験するだけでなく、考えるためのプロセスを学べた点が、子どもたちの将来にも大きく役立つと考えている。このプロセスは、受講生に配られる「探偵ノート」に載っている。


 新宮の家では、リビングの本棚に探偵ノートを置いている。子どもたちは何かの困りごとに遭遇した際や新たな目標ができた時に、本棚から引っ張り出して読んでいるという。新宮は次のように抱負を語る。「将来、親に相談できないような悩みが出てきたときにも、自分で解決してくれるでしょう。どんな時代になっても、たくましく生き抜いてくれると期待しています」


リスキー・プレディクションの図
図5●子どもイノベーター塾の受講を決断した際のリスキー・プリディクション

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