
Vol. 023
事例
株式会社ソフトクリエイト
プロマネの多くは、チームで仕事をした方がよいと理解していても一人で抱え込んでしまいがちだ。この結果、仕事が雪だるま式に増えて負のサイクルに陥ってしまう。新サービスを開発するにあたって、こうした状況から脱却したい…
こんな時、あなたならどうする?
新サービスの開発期間を60カ月から10カ月に短縮
ソフトクリエイトがサービス開発の生産性を高めるために、TOC(制約理論)の知識体系に含まれる「WIPボード」と「助けてボード」を導入した。この結果、開発期間が当初の想定の60カ月から6分の1の10カ月へと大幅に短縮できた。

中堅・中小企業向けのシステムインテグレーション事業を中核としているソフトクリエイトは2023年3月28日、新たなサービス「SCCloud 365(現:SCCloud365 Business)」の提供を開始した。これは、Microsoft 365をベースとしたITインフラサービス。利用企業が安心してMicrosoft 365に業務データを集約できる環境をオール・イン・ワンのクラウドサービスとして提供する。
このサービスの開発をけん引したのが、企画統括部戦略ビジネス部の技術推進グループで部長を務めている松田尚也氏だ。当初は、新サービスの開発に60カ月を要すると見込まれていたが、松田氏が中心となって全体最適のマネジメント理論「TOC(制約理論)」を導入したことで、わずか6分の1の1カ月へと大きく短縮できた。

「ロジックお化け」を自称
松田氏の仕事のメインミッションは、新たなサービスを企画することだ。同氏は自身の仕事のイメージを次のように説明する。
「例えば、AIをはじめとする最新のデジタルテクノロジーをどのように活用すると、私たちの仕事の生産性を向上させることができるのか。そのためにはどういったサービスにするとよいのか――。こうしたことに日々向き合ってアウトプットしています」
普段の業務で忙しい社員に向けて、最新テクノロジーの情報を5 ~ 10分の動画として毎日投稿することにも取り組んでいる。
同氏は、自身の特徴を「ロジックお化け」だと称する。「物事を極限まで論理的に考え抜いて、筋の通らないことは見過ごせない」と説明する。
奥様の一言からTOCを猛勉強
そんな同氏がTOCと出会ったきっかけは、2022年4月に奥様から問い掛けられた「ODSC って何?」という一言だった。ODSCとは、プロジェクトの目的(Objectives)、成果物(Deliverables)、成功基準(SuccessCriteria)を明確にして、関係者間で目標のすり合わせを行うツールのことだ。ロジックお化けの松田氏は当初、「胡散臭いコンサル会社のフレームワークでしょ」と考えていた。
最初は、YouTubeでGoldratt JapanのCEO(最高経営責任者)である岸良祐司の動画を見まくったり、『ザ・ゴール』や『ザ・チョイス』などの書籍を読みまくったりして、矛盾しているところを探そうとした。しかし、どこにも矛盾はなく、分かりやすい説明ばかりだった。こうしてTOCを正しく理解した結果、「8日後には経営陣に提案書を持っていくという暴挙に出た」(松田氏)と言う。
この提案書には、社内に「ザ・ゴール」研修(Goldratt Japanが提供しているリーダー育成プログラム)を導入することと、TOCを活用して5年後(60カ月後)に顧客企業を支援する新たなサービスを完成させることが記されていた。「60カ月で新サービスを完成させるために、今すぐにTOCに取り組むための投資 をお願いした」(松田氏)という構図だ。提案書に記された新サービスこそが、冒頭で紹介した「SCCloud365」だ。
過去に『ザ・ゴール』を読んだことがあるという林宗治社長をはじめとして主要な経営陣が、この提案を受け入れた。ある執行役員からは「松田が過負荷にならないように、人材戦略室の下で取り組もう」と助言された。
ワークショップで悪循環を特定
2022年5月には、岸良も参加する「放課後セミナー」(TOCの最新知識や実践事例を夕刻に学べるセミナー)を開催。松田氏の働きかけで幹部会議前に林社長からの参加推奨号令があったため、経営幹部全員がこのセミナーに参加した。
その後、放課後セミナーでTOCに興味を持った幹部の協力を得て、同年7月には現場メンバーも交えた半日のワークショップを開催。Goldrattのエキスパートがファシリテーターとなり、幹部と現場の社員が自社の問題と未来のあるべき姿を議論した。
ここで、技術者が足りないことを起点とした悪循環が見えてきた。技術現場のリーダーやマネジャーといった優秀な人に仕事が集中し、その優秀な人から辞めていき、そんな姿を見た若手はリーダーやマネジャーになりたくないと将来に希望を持てずにいる――。こんな状況が浮かび上がってきたのだ。

ワークショップの参加者全員が、悪循環を解消すべきだと考えていたが、具体的な打ち手が見つけられないでいた。そこで、ワークショップで描いた未来が本当に実現するのかを、小さな範囲で確認する実証実験(VVP=ViableVision Program)を実施することにした。
この取り組みに「Wake UP ! GradeUP !プロジェクト」と名付け、ワークショップから4カ月後の同年11月に始動させた。全部署から総勢10人の若手から中堅の社員が「サムライ」としてプロジェクトに参加した。サムライとは、TOCを活用した改革活動を推進していく中心メンバーのことだ。松田氏は、プロジェクトの運営側のメンバーとして参加した。

20日間の実証実験を実施
このプロジェクトでは、最初にGoldrattのエキスパートから理論を教えてもらい、次に理論を自社の環境に適応して成果を出すための仮説を立案した。その後に仮説に基づいて営業部門と技術部門を含めた実証実験を行った。最後に、結果を論理的に考察して経営陣に報告した。2022年の11月と12月のわずか2カ月間で一連の行程を完了した。
実証実験で取り組んだのが、「WIPボード」と「助けてボード」の導入だ。「集中フローボード」の別名を持つWIPボードとは、進行中のタスク(仕掛品)を可視化して、その流れを管理するためのツール。名前にあるWIPとは「work in process(仕掛かり)」の略だ。
一方の助けてボードは、自分だけでは解決できないために停滞しているタスクを見える化し、助けられる人からタイムリーに支援を得て、手遅れになる前に手を打つためのツールだ。ある社員が複数のタスクを抱えたときに、優先順位を付けて「今はやらないこと」を決めて、やるべきことに集中し、困った際には周りの人間が支援する。これによって、プロジェクト全体の生産性が飛躍的に向上する。

PDマネジメントへの変革を目指す
WIPボードと助けてボードの導入による目標の一つとして、マツダの元会長である金井誠太氏が提唱する「PDマネジメント」に変わることを掲げた。現状の問題の大半がPDマネジメントで解消できると判断したからだ。

PDマネジメントとは、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルのうち、計画と実行に重点を置くマネジメントスタイル。これに対して、世の中の多くのマネジャーは、計画と実行を現場に丸投げして、評価と改善に重点を置くCAマネジメントを行っているのが現実だ。松田氏は「PDマネジメントは未来のために時間を生かすマネジメントであるのに対して、CAマネジメントは過去のために時間を浪費するマネジメント」だと評する。
CAマネジメントでは、多くの場合、評価の段階で問題が発覚する。一般的に発覚する工程が後になるほど、問題が重大になるし、解決も困難になる。納期が遅れることも頻発する。工程が後になるほど問題の発見は容易になるが解決は困難になるのだ。
計画と実行に重点を置くPDマネジメントであれば、重大な問題を未然に防げる可能性が高くなる。仮に後工程で問題が発覚しても、ほとんどが軽微な修正で済む。
現場の社員からは「PD型の文化の幹部はゆとりがある。しかも、みんなから感謝される」「PD型の文化なら幹部を目指したいメンバーも増えるし、離職も減る」との声が上がった。松田氏は「自分でやった方が早いと抱え込んでいたプロマネが、しっかり準備をしてメンバーの力を引き出すプロマネに変わった」と語る。
開発期間を想定の6分の1に削減
実証実験で大きな成果が出たため、新サービスの開発でもWIPボードと助けてボードを活用した。この結果、60カ月かかると想定された開発期間を大幅に短縮できた。
最初に60カ月の開発期間が必要だと判断した理由は、開発に協力を求めるステークホルダーの数が多いからだ。営業やマーケティング、セキュリティー、サポートなどの社内部門、持ち株会社の法務部門や経理部門、さらにはクラウドメーカーである日本マイクロソフトや その他の仕入れ業者などの外部企業の協力が必要だった。
WIPボードと助けてボードを活用して生産性を高めた結果、実際の開発期間は想定の6分の1である10カ月にまで短縮できた。2023年3月23日には、新サービス「SCCloud 365」の記者発表会を実施。その場には日本マイクロソフトの幹部社員も登壇し、同サービスに対する期待を熱く語った。この模様を報じる記事を34件もの媒体が掲載した。松田氏は、同サービスを「お客様のUDE(Undesireble Effect:望ましくない状態)をDE(Desireble Effect:望ましい状態)に変えるサービス」だと評する。

こうした取り組みを通して、松田氏は上の図に掲げている3つのことを学んだ。当初のワークショップで見いだされた悪循環も、今では好循環に変わり、「手応えを感じている 」という。
新しいCTOを目指す
松田氏が、次に目指すのはCTO(最高技術責任者)だという。肩書が欲しい訳ではない。生成AIを備えている「Bing」のチャット(現:Copilot Chat)に対して、自分がやりたいことを問い掛けた際に提案されたものだ。BingはCTOの役割として、①エンジニアの採用や教育、②新しい製品やサービスの開発、③新しい技術の研究や導入、④他の幹部との連携――を掲げるが、松田氏は物足りないと感じていた。そこで、CTOのTを「チームの力を引き出す、頼れるリーダーを育てる、楽しい会社を創る」に置き換えた意味だと捉えている。
この実現に向けた取り組みの一つが、AIをはじめとした最新テクノロジーの情報を忙しい社員たちに発信していることだ。既に、この成果も表れている。2026年4月に、Microsoft 365 Copilotの最上位パートナーの認定である「Microsoft Copilot」Specializationを取得した。この認定は、日本のパートナーでは数 社しか取得できていない。マイクロソフトのグローバル認定資格でお墨付きを得た証だといえる。

