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Vol. 015

講演レビュー

安田 悦子 (Goldratt Japan HMO)

ゴールドラットでアドミ職に就いたが、利益への貢献が分からないような雑多な仕事ばかりでモチベーションが上がらない。「何をやっても空回りで、何でうまくいかないんだろう」という思いの中で仕事をこなしてきたが…

こんな時、あなたならどうする?

全体最適の経営改革ではアドミ部門がヒーローに!

制約の改善に集中するがTOC(制約理論)の骨子であるが、実は非制約の人財の方が重要な役割を担っている。一見することと矛盾しているように思えるかもしれないが、ゴールドラット社内でアドミ職を務める安田悦子が実例を交えながら、この真相を解説する。

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 全体最適の経営改革では総務・人事がヒーローになる――。このように言われても、ピンと来ない方が多いかもしれません。ご存じのように、全体最適のマネジメント理論「TOC(制約理論)」は仕事の流れの中で制約になっている部分の改善に集中します。


 通常、制約となるのは、その人にしかできないような仕事をしている希少な人財です。一般的には総務や人事、経理のようなアドミ部門(管理部門)は制約にはならないので、ここの人財がヒーローになるといっても、にわかには信じられないかもしれません。



みんなが頑張ることがダメ!?

 ゴールドラット社内での私の業務は、定型書類作成や資料のファイリング、経費精算や請求書・領収書の発行、ホテルや飛行機、会議室の手配などなど、組織全体の利益に貢献しているのかが分からないような雑多な仕事がほとんどです。会社にとっては欠かせない仕事かもしれませんが、2010年に入社した当初はモチベーションの上がらない日々を送っていました。


 そんな私の転機となったのが、TOCとの出会いでした。アドミ職として何度もTOCの講演を聴く機会がありました。その中で最も衝撃を受けたのは、全体最適の視点では「みんながそれぞれ一生懸命に頑張ったらダメ」だということです。


 組織は多くの人で成り立っています。その中でさまざまな能力を持つ人が連携して仕事をすることで会社のアウトプットを作り出しています。組織全体の仕事の流れを見ると、つながりとバラツキがあります。この流れの中には必ず制約がある。ならば、その制約に集中して助け合うことが全体最適となる。これがTOCの骨子です。すなわち、みんなが頑張るのではなく、みんなで制約を助けることで最大のパフォーマンスをもたらすことが可能になるのです。


 このような知見に出会ったことで、全体最適の視点におけるアドミ業務の本当の役割に気づきました。それは、組織を横断的に見て、業務の流れに支障がでないようにサポートし、みんなにとって働きやすい環境を整えること。そして、組織全体の仕事の流れを見ながら、制約を助けることで最大のパフォーマンスを生み出すことに貢献するということです。


 冒頭でもご説明したように、制約とは簡単に増やせない希少な人的リソースです。希少リソースが自分にしかできない仕事に集中できるようにその人を助けることで、アドミ部門が組織に最大のパフォーマンスをもたらすヒーローになるのです。

ゴールドラットジャパンが主催する「TOC クラブ」で講演する安田悦子


「5つの集中ステップ」を実践

 とはいっても「実際にどうやるんだろう?」と思いますよね。実はTOCには、そのための公式があるのです。それが「5つの集中ステップ」です。


 最初のステップで、制約を見つけます。仕事の滞留を特定するのです。「目の前に仕事が山積みになっている人」「スケジュールがパンパン、いつ休んでるの!?という人」「メールの返信がなかなか返ってこない人」――。会社の中にこんな人がいたら制約、すなわち希少リソースである可能性が極めて高いのです。このようにして、まずは会社の中の制約を特定します。

図1● 全体最適のマネジメント理論 TOC

 ステップ2の「制約をどう徹底活用するか決める」では、希少リソースがその人にしかできない仕事に集中できる環境を整えることがアドミ部門の役割になります。これには、大きく2つのポイントがあります。


 1つ目が、その人でなくてもできる仕事をアドミ部門が肩代わりすることです。例えば、経費精算や定型書類の整理、会議室の手配などです。


 もう1つが、その人が全集中で最大限の能力を発揮できるようなサポートをすることです。希少リソースはいろいろなところから引っ張りだこで、時間の確保が難しくなっています。だから、1分たりとも無駄にせず、着手したその瞬間から全能力を注げるようにすることが大切です。


 そして、この環境を創る上で重要なことがあります。限られた時間の中で希少リソースが力を出し切れるように徹底したフルキット(万全な準備)をすることが肝です。せっかく制約の時間を確保したとしても、準備不足で手戻りや滞留が起こってしまったら、その時間が無駄になってしまいます。なので、仕事がスムーズに進められるようなフルキットをした上で、希少リソースを活用することが重要です。


 例えば、希少リソースに資料を送る際には見てほしい情報に対して優先順位を付けてソートしておきます。打ち合わせをするときは、その人がすぐに集中して議論に入れるように必要な情報を整理しています。


 また、希少リソースが講演をするときは、話すことだけに集中してプレゼンに臨めるように、講演以外の全ての準備を整えておきます。このように、希少リソースがベストな状態で仕事に着手でき、その後にもスムーズに進められる状況をつくることが一番の肝です。


図2 ● 組織に最大のパフォーマンスをもたらす「5 つの集中ステップ」


人財育成にも大きな貢献

 ステップ3の「他のすべてをステップ2の決定に従わせる」とは、希少リソースに合わせて仕事の投入をコントロールすることです。希少リソースを徹底活用するといっても、仕事を押し込んで、仕事が山積みなんてことになればプレッシャーを感じて仕事に集中できなくなりますし、仕事の流れも悪くなります。そうならないように、アドミ部門が希少リソースの負荷を見ながら、それに合わせてゆとりをもってスケジューリングするのです。これによって全体の仕事の流れが良くなり、アウトプットを高められるようになります。


 ステップ4の「制約の能力を高める」とは、希少リソースの仕事をできる人を増やすことです。希少リソースが最大の能力を発揮でき、徹底活用できるようになったら、次はその人と同じことをできる人を増やすことが、さらに組織全体のパフォーマンスを高めることにつながります。ここでは、人財育成につながる環境をつくることがアドミ部門の役割となります。


 私たちの会社では「成長ナビ」という人財育成の仕組みがあります。新入社員には先輩社員のメンターがアサインされます。メンターが自分たちのやっていることを新入社員がやれるように教え、それを実践する上での障害や懸念を取り除くために、どう考えればいいのかを支援することで共に成長していきます。


 このほか、社外向けのゴールドラットスクールというセミナーに社員が受講者として参加し、TOCの基礎を学んだ上で、自分が学んだことを他人に教えることで人の成長を促しています。私たちは、知識を得て自分でできるようになるだけではなく、他の人ができるように伝えられて初めて理解したといえると考えています。


 アドミ部門だからこその特権もあります。ゴールドラットのアドミ部門は、希少リソースをサポートする中で、一緒に行動する機会が増え、自然と最新の知識や有識者の知見に触れる機会が増えてきます。さらに、新たに得た情報や内容を他のメンバーに共有することもアドミ部門の役割です。そうなると、おのずと得た情報を自分の中でちゃんと考え、理解した上でそれを相手が分かるように伝えようとしますよね。まさに、自分が得た知識を人に教えるということを仕事の中で実践しているんです。


 私はTOCクラブ(社外向けのセミナー)の後に、その内容をSNS上で自分の考察として投稿しています。入社してから、仕事を通して得た知識をほかの人にも分かってもらえるように伝える、これをこつこつと実践してきました。そのおかげでアカデミアのすごい先生にも「いいね!」をいただけるほどの考察ができるようになりました。ゴールドラットの社内では「実はアドミ職が最も成長してるんじゃないか」と噂になっています。


 この次にはステップ1に戻り、新たな制約を見つけます。これによって、継続的な組織の成長につながるのです。アドミ部門が「5つの集中ステップ」で仕事の流れをマネジメントすることで、組織にブレークスルーをもたらすヒーローになれるのです。ちなみに、ゴールドラット社内ではアドミ組織の名称を「HolisticManagement Office( 全体最適マネジメントオフィス)」としています。

図3 ● 失敗ばかりして迷走していた頃の私


自分のゴール(目標)を設定する

 先に少しお話ししたように、入社したころの私は「何をやっても空回りで、一生懸命やってるのに何でうまくいかないんだろう」と満たされない日々を送っていました。この当時の私に欠けていたもの、それは「ザ・ゴール(目標)」です。


 ゴールを設定していないと、とりあえず何も考えず言われた通りにやってしまう。すると、たいていの場合、相手の期待していた内容と違っていて手戻りが起きる。でも、やっぱりゴールが明確じゃないから、また、とりあえず言われた通りにやると、また違うと言われてしまう。このような悪循環に陥っていたのです。ゴールがなければ、自分が成長しているかどうかも分かりません。


 しかし、自分のゴールを設定すれば、この悪循環から脱却できます。ゴールが明確になれば、自分がどこに向かって進んでいるのかが分かるようになります。さらに、ゴール達成のために行動することで、自分が前進しているかどうかも分かります。そして、ゴールに近づいていると実感することで達成感が得られ、それが次の行動を起こす原動力になります。

図4 ● ワクワクする目標「ザ・ゴール」設定のコツ

 とはいっても、いきなり「自分のゴールを設定せよ」と言われても戸惑う方が多いかもしれません。重要なことは、これが達成できたら、うれしいと思えるようなワクワクするゴールを設定することです。一日の大半の時間を仕事に使っているということは、一生の大半の時間を仕事に使っていることにほかなりません。ですので、仕事での成功と自分の人生の目標をオーバーラップさせることが大切です。そうすれば、日々の仕事そのものが自己実現につながっていくので、充実感ある毎日が始まります。



「月曜日が楽しみな会社」を広げたい

 現在の私のゴールは「自分は普通の人、すごい人のようにはなれないと思い込んでいる人に元気と勇気を与えられるようなロールモデルになる」というものです。


 私はゴールドラットに入社するまでは「自分には絶対無理!」「失敗するに決まってる!」という強い思い込みがあり、ありとあらゆるチャンスから目を背けてきました。でも、TOCの考え方に触れたことがきっかけで「本当にそうなのか?」と自分の思い込みに向き合えるようになってきました。


 そして、それをちょっとずつ取り除くことで前に進むことができ、次の新たなことにチャレンジする――このように変わっていきました。できないと思っていたことができるようになり、その度に自分に自信がつき、かつ、できたことがうれしくなり達成感で満たされる。こういういうことを繰り返しながら「人生を楽しむ」ということを実感しつつあります。


 ゴールドラットは「月曜日が楽しみだ!」とイキイキと社員が働いている、そんな会社を世の中に増やすことを目標に掲げています。そして私はその中で、自ら新たなことにチャレンジし続けることで、周りの人に元気を与えられるような活動をしています。


 そんな私の人生は、まだ道半ば。これからも、今の自分の環境を生かしながら、ゴールに近づけるように新たなことにチャレンジし続けることで、周りに元気と勇気を与えられるような人になれたらと思っています。


 最後になりますが、今回の話を通じて、世の中の多くの私と同じような立場や役割の人たちが、自分の仕事に誇りをもって、イキイキと働ける職場が世の中にたくさん増えていってほしい。こう願っています。ぜひ皆さんと一緒に「月曜日が楽しみな会社」を日本中に広めていきたいと思っています。(了)


図5 ● 全体最適の経営改革でアドミ部門がヒーローになるためのリスキー・プリディクション

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